「質のいいヒマ、できる？」代償でない充足と、予定を埋めつくさない勇気

最近インタビューの中で、「ヒビノさんは、毎日どんなことをして過ごしているんですか？」と聞かれた。そこで、「うーんと、だいたい、ぼーっとしてます」と答えた。

「え、ぼーっとですか？」
「はい、ぼーっと」
「ぼーっとしてるって、何してるんですか？」
「いや、ぼーっと」
・・・・・・

まあ、家事と子育てと、執筆と講座のことなんかは、こまごまとやっているんだけど、そのほかに思い当たることといえば、「ぼーっとしてる」しか思いつかなかったの（笑）

インタビュアーさんは女性だったんだけど、「ヒビノさんは、ヒマができるんですね。わたしはヒマが苦手なんですよ～。なんか不安になっちゃって。予定を隙間なく埋めたくなります」とのこと。止まったら死ぬような気持ちになるそうだ。

質のいいヒマが好き

はあ～。なるほど。昔、そんな彼氏いたなあ。「オレ、いつも予定ぎっしりでないと不安。家にいる時も、テレビついてないと不安」みたいな人。かわいいけど、大変だなあって思った。今はネットもあるから、余計に工夫しないと四六時中何か見てしまうよね。（関連「どうでもいい情報」で自分を埋め尽くさない）

わたしは、「自分を見失うようなヒマはイヤだけど、質のいいヒマは好き」。

「じゃあ、質のいいヒマって、どんなヒマ？」

そうだなあ。川の前のテラスで、ぼーっとしながらお茶を飲んでいる時。ざわわわ、ざわわわ・・・っていう水の音とか、葉っぱにうつる光の当たり加減が、お日様の方向とともに変わっていくところを、眺めてるような時かな。

あとは、無心でサトイモの皮をむいてる時とか、スープをくつくつ煮込んでいる音を楽しんでる時とか。洗濯したてのシャツを、ぱしぱし伸ばして、青空の中に、ひとつずつ干していく時とか。野花を摘んできて、小さなミルクポットに飾る瞬間も、そうだな。

人によっては、電車での移動中とか、掃除してる時っていう人もいるよね。

どうってことない時間があるから、取り返そうとしない

そういうヒマがあって、はじめて、わたしは成り立っていられる。

それがあるから、こうやって書けるのだと思うし、一生懸命働ける。

ご褒美ではない、まいにちの中に忍ばされた、どうってことのない時間。

改めて考えてみると、変に反動が来ないためには、この「どうってことなさ」は、意外と重要なのかもしれない。

インタビュアーさんには、「ケイコさんの書くものは、毎回そこに生み出されたものが何か入ってるから、バランスを取るためにもぼーっとすることが必要なのかもしれませんね」と言われた。

確かに、わたしは一つ一つのことを、作業的にできない。いちいち生み出そうとしてしまう。だから、1日の中できゅーっと集中する時と、ほ〜っと力を抜く時を作って、自分のつじつまを合わせているのかもしれない。

たぶんこれがないと、「これだけ頑張ったんだから、これだけ満たされるべき」と「代償」として必要のないものを求めてしまう。何か大事なものを捨ててる気がすると、特別なもので取り返そうとする。虚無感や寂しさを感じたくないから、忙しくしてしまう。たくさんのお酒や、アップダウンがひどい恋愛や、デコレーションし過ぎた休日ですきまを埋めるとの同じで。

一瞬、口寂しいのが癒される。でもそれでは結局、一番深いレベルで充足できないことを、今はどこかで知っている。