むぎ、むぎ、むぎっ・・・。
久しぶりに山を歩いていく。
歩くたび、緑のむわっとした香りが入ってくる。
木が過密になった杉林は、少し暗くて寒いけれど、
干ばつされた場所に出ると、木の間に白い光が差していた。
台風のあと、ひゅーっと風が通って心地がよい。
現代の木こり。
自伐林業チーム、山番LLP。
移住した協力隊出身の3人が、
ひとつのチームとなって自伐林業に取り組んでいる。
戦後すぐの植林政策により多くが人工樹林に。
木材価格の低迷で、山はほったらかしに近い状態。
山の多様な生態系は崩れ、痩せ、
貯水率の低下が土砂崩れのもとに。
補助金を使っても赤字、
という林業の実態を打破る方法として注目されているのが、
小さな投資で稼ぐかたちにより山を蘇らせる小規模林業。
より儲かりやすい仕組みにするため、
加工して利益率をあげる仕組みに挑戦する
山番LLPのメンバーにお話をうかがいにきた。
・・・
メンバーの川端さんが、ぽつ、ぽつと、
お話をしてくれる。
「自分の事業体を大きくしてゆくよりも、
自分たちのようなチームをたくさん増やしたいなと思っているんです」
わたしたちは、はっとする。
それって、山のことだけではないなあ。
わたしが目指したい事業のかたちも、
地域のかたちにも、にているな。
誰かひとりが誰かを抱えたり、
抱えられたりするのではなく、
自立できるチームが、
たくさん増えたらいいなあと思う。
れいほくの場合は、
まだまだ手入れしなければ
いけない山がいっぱいあるので、
チームがある程度増えても、
共生していけるらしい。
いい山の定義はひとつじゃない
川端さんがさらに言う。
「いい山の定義はひとつじゃない。
チームがあるだけ、いい山の定義があるんです。」
もちろん自分としては、
「いい山だ」と思う状態に手入れしていくわけだけれども、
定義がひとつだけだとリスクになる。
たくさんの見方、とらえかたがあって、色んな「いい山」ができる。
そのほうが全体としてみれば、安全だ、と。
なるほどなあ・・・と思う。
確かに、その通り。
山であれ、商品であれ、
サービスであれ、子育てであれ、生き方であれ・・・・
自分たちなりに、
「これがいい」と思うものをデザインし、
作り上げていくわけだけど、
それが正しいかどうかは、
100年後になってみないとわからないところがある。
どれだけ考えたとしてもね。
だからこそ、同じ時代背景から、
それぞれの知力・行動力を結集して、
色んな形のものが生まれることがリスク回避になる。
デザイナーをしている参加者さんが、この言葉を聞いて
「今まで、わたしはデザインするとき、
他社製品よりいいものを作ろうとか、
人を出し抜こうとか、そういうことばかり考えていました。」
とおっしゃった。
そんな彼女が、
いい山の定義はひとつじゃないこと、
チームがたくさんあればいいというのを聞いて、
「それは自分になかった概念だ!」と、衝撃だったよう。
これからは、作ることを通して、
人の役に立つことも考えてみたいと思ったみたい。
今と未来
そして、印象的だったのは、
いろんなものを統合していく必要がある仕事なんだなということ。
例えば、
今現在、お金になる木と、100年後は違うため
今を大事にしながらも、時代を読み、
未来も見据えたデザインをしていくこと。
山主さんや林業をしている人たちの収益になる計画を考えながらも、
環境として大切なものも、考えていくこと。
なんて、ロマンのある壮大なデザインだろう・・・と感じた。
難しいからこそ、面白いんだろうな、とも。
打ち出しながら多様性を認める
林業でなくても、ビジネスや生きること全般として重要なのは、
自分自身は精一杯、
今の時点での最善の方向性を、世の中に打ち出していくこと。
そして、同じ方向性を持つ人とともに、歩んでいくこと。
・・・と同時に、
世界のみんなが自分の意見に染まることを望まないこと。
多様性によるリスク回避も、理解していること。
自分とは合わない人、去っていく人がいたとしても、
それはそれで違う山を作ろうとしているんだな、
とオッケーを出していく。
あ、ここ間違いがちだけど
「多様性」に対して受け入れているつもりで、
「ぜんぶ、いいよね~」と言って、
表面上の協調ばかりを取り、
なあなあになって、
自分が打ち出すものがなければお話にならない。
それぞれのやり方がバーン!と打ち出されていてこそ、
それぞれが十分にやっていくことができる。
だから、まず自分がどんな方向性を持って生きて行くのか?
打ち出していくか?が、前提として重要なのだ。
その上で、他のやり方も認められる余裕があれば、なおすてき。
自分自身が打ち出す方向性と、多様性の両立について
考えさせられた山での時間だった。
「この山が今ある、ということ自体が
昔の方々から自分たちへの恩恵。
だから、次の世代へ自分たちが
できることをしようと思うんです」
川端さんがまた、ぽつ、ぽつ・・・と話す。
言葉の重みがすごい。
負の遺産は、できるだけ整理して、
いいと思えるもの、最善を作っていく。
いろんな要素が絡み合って、難しいけれど、
それでも挑戦していくこと自体が終わることのないロマンだな、
と感じて、また山を降りた。
今日の質問
あなたが打ち出したい「いい山」(こう生きていきたいという世界)は
どんなものですか?