完成した家はいらない。住まいは「得る」のではなく「育てる」もの。築150年の古民家に住んで

家は得るもの?


「理想の住まいを得て、もう完成したという感じですか?」

というような質問をインタビュアーさんから受けた時、ふと

「得たという感覚は全くなくて、大切に受け継がれてきた場を、”預かっている”という感覚だな・・・」と思った。



・・・


ぽと、ぽと、玄関の渋柿が落ちてくる。

最近、「日本家屋で暮らす」というテーマのメディア取材があり、わたしたちが暮らす築150年の古民家の撮影と、ライフスタイルのインタビューを受けた。いつもは、新築の工房&アトリエの方が 取材されることが多いので、珍しいなと思った。


父親が設計士だったからか、子供の頃から住むということや、建築に興味があった。



いろんな家に住んでみたくて、大学生のころは京都で毎年引越しをした。マンションからDIYアパート、シェアハウス、その次は田舎の寺。住まいを変えていき、インテリアも暮らし方も、そこで流れる過ごし方も変わっていくこと自体が面白かった。


いまで11年暮らしている高知の山奥の古民家は、もともと夫の実家だったけど、20年間人が住んでおらず、おばあちゃんとおじいちゃんが畑仕事の合間に休憩する、ほんのりとした居場所になっていた。



大きな山自体が敷地で、川もながれていて、畳の上にごろんと寝転がると、雲が流れていくのをいつまでも眺めていられる。

山や空と地続きの、日本家屋のオープンさ。

広く開け放たれた縁側から見える山。

薄い障子から漏れる光、土壁の落ち着くにおい。

すごく落ち着き、体も元気になっていく感覚を覚えた。

 

結婚後、日本全国巡ってみて、「子育てするにはどこにしよう?」と考えた末、この家を選ぶこととなった。

今思えば、小さなころからの「美しい空間とは、環境とは?」という問いの、自分なりのこたえが、ここを選ばせたのだと思う。



そんなわけで今は、長い歴史の中で大切にされてきたこのお家を、使わせてもらっている。

理想の環境って存在するの?

 


掃除をして、ものを置かないほどすっとした美しさが現れる。
日本家屋は引き算が似合う。
 
 

その一方で、「理想の・・・」と言われると、理想っていうのは住まいだけで完結するようなものでもないよなと思う。家は間取りやインテリアだけでなく、それを取り巻く環境自体も影響があるから。
 


田舎のムラだからこその人との距離の近さ。

協力関係は素晴らしいと思いつつ、プライベートのなさみたいなものには慣れない自分もいる。


いきなりガラッと家をあけて「いるかよ!」と呼ぶ人がいれば焦るし、

車が停まっていれば通りがかりの人に「今日はどこそこからお客さんが来てたねえ」と言われてぞくっとすることもある。噂話は尾ひれはひれがついて、一周回ってくる時にはもはや笑えるネタみたいになって、結局笑っちゃうんだけど。



そんな田舎あるあるは、いっぱい存在し、時々、うんざりして「ああほんと、一般的な妻や嫁になれない、こんな人間ですみません」と思ったりすることだってあった。



だけど、それでも、数日悩んだ後に、結局は応援してくれている人を思い出し、さらに、 「自分は自分が美しいと思ったものを大切に、生きていこう」と思うのだった。

そういうところも含めて、暮らしている。
 


光と影をふくむ、美しさ


地域でも、都会でも、どこで住んでいたとしても、どんな境遇や、状況や、人間関係の中であっても、美しさとは、ただ表面的な美しさを指すのではなく、表と裏、光と影、不完全さを受け入れた上で選び歩み続ける賢さだと思う。

わたしは、田舎で暮らしているけど、みんながよく想起する「昔ながらの暮らし」や「丁寧な暮らし」はあんまりしていない。広すぎる家は、ほうきではかない。ルンバ(ロボット掃除機)使う。全部畳の部屋だと暮らしにくく、インテリアも遊びがほしいから、茶の間や寝室はフローリングにして楽しんでる。一ヶ月に一回は、都会で仕事をして、各地を行ったり来たりしている。

土地や地域、その家の良さを引き出し、引き継いでいくことはすてきなこと。だけど、だからといって昔のものに合わせ過ぎたり、誰かのやってそうな暮らしのテンプレートに合わせることもない。

現代に生きる自分だからこその、スタンス。価値観、趣味嗜好、ライフスタイル。それを大切にしてあげながら、もともとあるしっかりとした土台と止揚して、いいものを作っていけばいい。それが、今の人たちが通気性よく生きやすい、住まい、地域、ライフスタイルにもつながっていくから。


・・・


「美しい」と思える住まいや暮らし方は、「得るもの」ではなく「育てていく」もの。



いっとき、生を受けてこの世にいる。

この場所で暮らしを広げている。



紆余曲折、光も影も受け止めながら、自分なりの生き方を紡ぐうち、かけがえのない自分にとっての「美しい住まい」や「暮らし方」が作られていく。

住まいは生きている間ずっと、完成することなくうごめいている。




今日の質問



あなたにとっての美しい住まい。
どんな風に育てていきたいですか?

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